前回の記事で、アメリカの医師は勤務時間がフレキシブルと書きました。時間給ではないので自分の仕事が終わればさっさと帰宅するのが当たり前です。何となくだらだらと院内に残っている人はまず見かけません。そして院内にいる時間が短い理由にはもう一つあります。院外からカルテにアクセスできる、リモートアクセスです。

お恥ずかしながら、私は日本でリモートアクセスがあまり普及していないことを最近まで知りませんでした。確かに日本にいた時には使っていなかったのですが、アメリカで電子カルテとリモートアクセスが2010年代に急速に普及したように、私がアメリカにいる間に日本でも同じような変化が起きていると勝手に思っていたのです。アメリカでリモートアクセスがない状況はまず考えられません。新しく医師を募集する時にリモートアクセスがなければその病院で働きたいと思う医師はおそらくいないでしょう。そのことをTwitterでつぶやいたところ沢山の反響があり、その中には自宅に帰ってまで仕事をしなければならない状況を憂う声もありました。確かに日本での勤務状況を考えるとそういう風に思われてもおかしくないと思います。フレキシブルな勤務体制や完全オンコール制がない状況でリモートアクセスがあっても上手く機能しないかもしれませんね。

アメリカのリモートアクセス、使うか使わないかは医師次第ですが使っていない人を私は知りません。退職間近の医師も若手の医師もみんなが使っています。院内で使う電子カルテで出来ることはすべてリモートアクセスで可能であり、患者さんのカルテや画像、検査結果の閲覧の他、カルテを書いたりオーダーを出すことも可能です。この機能があれば何かやり忘れたり間違えたことがあっても自宅からすぐに修正することができますし、気になる患者さんの情報を自宅にいながらチェックすることができます。じゃあ24時間仕事に縛られるかというと、そうではありません。例えば私の外来が午後4時に終わり、次の日の午前は予定がなかったとしましょう。そうすると私は外来が終わった時点でとりあえず家に帰り、次の日の朝に自宅でゆっくりと外来のカルテを書きます。もちろんカルテを書き終わるまで院内に残っても構いません。心配な患者さんのCTをオーダーしてもとりあえず家に帰ってCTの結果を待ち画像を確認できますし、何かオーダーを忘れても自宅からオーダーを出すことができます。要するに、何かあっても自宅から対応できることが多いので帰宅するハードルが下がるのです。

最近ではコロナウイルスの影響で遠隔外来も増えています。患者さんが自宅からビデオ通信にアクセスして外来受診するのですが、医師も自宅からのアクセスで診療して構いません。そのためますます医師の働き方の幅が広がっています。院内でしか仕事が出来ない状況と、院内でも自宅でもアクセスがありその日の予定によってどこで仕事をするか選べる。どちらを選ぶかといえば後者に人気があるのは当然ではないでしょうか。完全オンコール制や医師が時間外に呼び出されないシステムについてはまた後日記載したいと思います。