前回の続きです。アメリカの Home call は日本の当直に比べてとても楽ですよとお話しました。これはもちろん四六時中院内にいなくてもいいからなのですが、どうして院内にいなくてもいいのかにはちゃんと理由があります。

一つは前に書いたリモートアクセスです。自宅から検査結果をみたりオーダーを出したりすることができるので、わざわざそのために病院に行く必要がありません。施設やシステムによっては携帯からもこの機能を使うことができるのでパソコン開くことが出来なくても大丈夫です。

もう一つは、多くの場合院内に研修医や Mid level provider と呼ばれる看護師さんと医師の中間の立場にある人が常駐していることです。研修病院なら Resident や Fellow が交代で24時間その科をカバーします。研修医がいないような病院や科では Mid level provider が常に院内にいることが多いです。Mid level provider には看護資格を取得した後さらに学校に通って資格を得る Nurse Practitioner と、看護師ではなく2年間の専門学校に通って資格を得る Physician Assistant の2種類があります。こういった立場の医療者はある程度独立して患者さんを診察・治療することができます。研修医とはまた違う立場ですが入院患者さんの治療に際しては研修医と同じような仕事内容と思っていただければいいでしょう。研修医や Mid level provider (今回は研修医で一まとめにします)が常に院内にいることで、簡単なオーダー漏れや追加オーダーは研修医が対応してくれます。新規コンサルトや患者さんの容態変化などもまず研修医が対応、その後指導医に連絡が来て治療計画の確認をすることになります。緊急手術や処置が必要になるもの、電話だけでは対応や現状把握が困難なものでは指導医が院内に来ることもありますが、これはさほど多くありません。電話対応だけで済んだ場合は翌日の回診時に指導医が患者さんの診察をします。

例えば私がオンコールの際に憩室炎穿孔の患者さんのコンサルトが来たとしましょう。研修医がまず呼び出され、患者さんの診察と検査の確認などをします。その後研修医が私に電話をし、触診で腹膜炎兆候がありCTでフリーエアがある旨、患者さんの簡単な基礎疾患や病歴についてプレゼンをします。私はその時点で指導医に手術室に連絡をして手術の準備を進めるようにと指示を出し病院に向かいます。手術室の予定によって待ち時間は変わりますが、私は術前室で患者さんに会い、診察と手術の説明を行います。ちなみにこのとき患者さんはすでに手術説明を研修医から受けており、同意書にサインしています。手術が必要かどうか研修医のプレゼンからでは判断しかねる場合はとりあえず病院に行って患者さんを診察しますが、大体の場合は直接患者さんを診察する前から治療方針の当てがついています。高次外傷などでもない限りは手術が決まってから患者さんを手術室に運ぶまでに1時間くらいはかかるので、その間に病院に到着できれば特に治療に遅れはでません。

このシステム、アメリカで働いたことがなければなかなか分かりにくい感覚ではないかと思います。こういったお話をすると、研修医や医師ではない Mid level provider に患者さんを任せることに不安を抱える人もいます。ただこの制度に入って仕事をしてみると、案外うまく動いていたりもするんですよ。屋根瓦式の研修が浸透しているので、1-2年目の研修医はその上の研修医がしっかり面倒をみているということも大きいですね。もちろんその日の研修医の能力によって多少の変化はありますが、じゃあ数人の医師がずっと病院に缶詰めで仕事をするのが患者さんにとって安全かというと私はそれも疑問があります。

こういった制度のおかげでアメリカではオンコール中でも家族や友人と近場に出掛けたり、買い物に行ったりすることが普通です。もちろん遠出はしませんし携帯電話はいつでも出られるようにしてあります。